高次脳機能障害認定システムについて
1 現在の認定システムの運用状況
自賠責保険における「脳外傷による高次脳機能障害」に関する後遺障害認定については,「見過ごされやすい障害」という問題意識から,これまで,損保料率機構において,幾度か検討・見直しがされているところです。
(1)どこが審査しているのか
被害者救済という観点から,認定システムの充実化が図られているところですが,高次脳機能障害認定システムの特殊性として,「高次脳機能障害審査会」という専門部による特別な審査を挙げることができます。つまり,高次脳機能障害が疑われる事案については,基本的に「高次脳機能障害審査会」によって慎重に審査がなされるのです。そのため,通常の事案に比べ,審査に要する期間が長くなる傾向にあるといえます。
(2)どのような基準で審査しているのか
そして,「高次脳機能障害審査会」がどのような基準に基づき,高次脳機能障害の有無,その程度を判断しているのかといいますと,現在は,平成23年3月4日付で,自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会が報告した「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」(報告書)に基づき,認定システムの運用がなされています。
2 報告書の内容
では,上記報告書にはどのようなことが記載されているのでしょうか。ポイントを絞って,説明したいと思います。
(1)「高次脳機能障害審査会」の審査対象となる事案とは
まず,入口要件として,そもそもどのような案件について,「高次脳機能障害審査会」による特別な審査の対象となるのでしょうか。この点について,以下のように場合分けして,上記報告書は,審査対象を選定すべきとしています(以下,上記報告書の内容を引用しています。)。
ア 後遺障害診断書において,高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められる(診療医が高次脳機能障害または脳の器質的損傷の診断を行っている)場合
この場合,全件高次脳機能障害に関する調査を実施の上で,高次脳機能障害審査会において審査が行われます。
イ 後遺障害診断書において,高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められない(診療医が高次脳機能障害または脳の器質的損傷の診断を行っていない)場合
以下の①~⑤の条件のいずれかに該当する事案(上記アに該当する事案は除く。)は,高次脳機能障害(または脳の器質的損傷)の診断が行われていないとしても,見落とされて可能性が高いため,慎重に調査を行う。
具体的には,原則として被害者本人及び家族に対して,脳外傷による高次脳機能障害の症状が残存しているか否かの確認を行い,その結果,高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められる場合には,高次脳機能障害に関する調査を実施の上で,自賠責保険(共済)審査会において審査を行う。
①初診時に頭部外傷の診断があり,経過の診断書において,高次脳機能障害,脳挫傷(後遺症),びまん性軸索損傷,びまん性脳損傷等の診断がなされている症例
②初診時に頭部外傷の診断があり,経過の診断書において,認知・行動・情緒障害を示唆する具体的な症状,あるいは失調性歩行,痙性片麻痺など高次脳機能障害に伴いやすい神経系統の障害が認められる症例
(注)具体的症状として,以下のようなものが挙げられる。
知能低下,思考・判断能力低下,記憶障害,記銘障害,見当識障害,注意力低下,発動性低下,抑制低下,自発性低下,気力低下,衝動性,易怒性,自己中心的
③経過の診断書において,初診時の頭部画像所見として頭蓋内病変が記述されている症例
④初診時に頭部外傷の診断があり,初診病院の経過の診断書において,当初の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3~2桁,GCSが12点以下)が少なくとも6時間以上,もしくは,健忘あるいは軽度意識障害(JCSが1桁,GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上続いていることが確認できる症例
⑤その他,脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例
(2)症状と障害を把握するうえでのポイント
次に,審査対象として選定された案件について,どのような要素や資料に基づき,脳外傷による高次脳機能障害として,後遺障害の認定がなされるのでしょうか。ポイントをまとめます。
意識障害の有無とその程度・長さ
脳外傷による高次脳機能障害は,意識消失を伴うような頭部外傷後に起こりやすいという特徴がありますので,まず,意識障害の有無とその程度・長さがポイントとなります。
一般的には,脳外傷直後の意識障害が約6時間以上継続するケースでは,永続的な高次脳機能障害が残ることが多いと言われています。
したがって,事故の態様が重大なもので,意識不明の状態が長く続いたというようなケースでは,高次脳機能障害を疑わなければなりません。
なお,意識障害の有無とその程度・長さについては,主治医の先生に,「頭部外傷後の意識障害についての所見」という書類を作成していただくことで明らかになります。
画像所見
上記報告書では,「画像資料上で外傷後ほぼ3か月以内に完成する脳室拡大・びまん性脳萎縮の所見が重要なポイントとなる。」とされています。
その他にも,XPによる脳損傷,CTによる脳萎縮,MRIによる点状出血や脳萎縮などの画像所見が認められるようなケースなどが高次脳機能障害の他覚的な所見として重視されています。脳の器質的損傷の判断にあたっては,従前どおり,CTとMRIが有用な資料であることが再確認されています。
なお,これらの画像資料及びその所見については,画像(ないしデータ)の確認及び主治医の先生に作成していただく「後遺障害診断書」と「神経系統の障害に関する医学的意見」を確認することで判断されます。
因果関係
当然のことながら,交通事故と高次脳機能障害との間に,因果関係が認められなければなりません。つまり,事故とは無関係に,高次脳機能障害が生じたというのでは,自賠責における「脳外傷に高次脳機能障害」とは認定されません。特に被害者の方が高齢者である場合に,問題となることが多いといえます。
家族、介護者から得られる被害者の日常生活の情報
上記報告書によれば,障害の実相を把握するためには,家族や介護者から得られる被害者の方の日常生活に関する情報が重要であるとされています。
高次脳機能障害特有の問題点ともいえる事項ですが,高次脳機能障害を 負った被害者の方は,自己洞察力が低下することにより,自身の障害を正確に把握できていないケースが見受けられます。
そのため,障害の把握には,他者から見た情報,つまり,家族や介護者から得られる日常生活に関する情報が不可欠であると考えられるのです。
なお,日常生活に関する情報については,家族や介護者が作成する「日常生活状況報告書」等の記載により確認されます。
(3)「軽症頭部外傷後の高次脳機能障害」について
従前の認定システムでは後遺障害として認定されにくい(障害として確認しにくい)という問題意識から,上記報告書では,軽症頭部外傷後の高次脳機能障害に関する検討が中心的になされています。
その中でも,いわゆるMTBI(mild traumatic brain injury)に関する取扱いについて,意見が述べられています。
結論的には,「軽症頭部外傷後に1年以上回復せずに遷延する症状については,それがWHOの診断基準を満たすMTBIとされる場合であっても,それのみで高次脳機能障害であると評価することは適切ではない。ただし,軽症頭部外傷後に脳の器質的損傷が発生する可能性を完全に否定することはできないと考える。したがって,このような事案における高次脳機能障害の判断は,症状の経過,検査所見等も併せ慎重に検討されるべきである。」との報告がなされています。
まわりくどい内容ですが,要するに,MTBI≠後遺障害として認定される「脳外傷による高次脳機能障害」ということです。ただし,被害者の方に生じている症状が心理的あるいは社会的要因による可能性もあるとはいえ,器質的損傷が発生している可能性も否定できないので,各種の資料を精査して判断するという基本方針であると理解できます。
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