治療に専念していただくために~労災保険と健康保険の使い方~
交通事故被害にあわれ怪我をされた場合に,何よりも一番大切なことは,事故による怪我が完治することです。そのためには,治療に専念していただくための環境作りが不可欠です。ラグーンでは,特に重症を負われた方にとって重要になる,治療に専念していただくための環境作りという観点からも,力を入れてサポートを行っています。
何より,できる限り早い段階から,弁護士に相談していただくことが重要なことはもちろんですが,これ以外にも治療に専念していただくための環境作りに役立つ方法がありますので,ご紹介させていただきます。 |
具体的な活用方法はケースバイケースですので,ラグーンにご相談ください。
1 労災保険の活用
仕事をしているときに交通事故にあわれた方については,労災保険の活用を検討する必要があります。労災保険は,業務災害(業務遂行中の事故)又は通勤災害(通勤中の事故)が適用対象となります。
労災保険を活用した場合,療養(補償)給付として,無料で治療や薬剤の支給等を受けることができます。
通院の都度お金を払う必要がなく,自賠責のような限度額がないというメリットがあります。特に,被害者側にもかなりの過失があると見込まれる事案においては,労災保険には過失減額という仕組みがありませんので,労災保険の活用が重要になります。
2 健康保険の活用
労働災害に該当しない場合,健康保険の活用を検討する必要があります。まれに交通事故では健康保険を利用することができないという誤った説明をする医療機関も存在します。しかし,そのようなことはなく,交通事故に関しても健康保険を活用することはできます。
健康保険を活用した場合,自由診療とは異なり,治療費等の単価を低く抑えることができます。「どうせ加害者の保険会社に対応してもらうから,こちらが治療費を低くするように協力する必要はないな」と甘く考えていてはいけません。
これはどういうことかと言いますと,例えば,被害者側にも5割の過失があり,健康保険を活用せずに治療費として200万円(加害者の任意保険会社が支払済とします。),その他の損害として200万円の損害が発生した事案を例にしたいと思います。
治療費 | 200万円 |
その他損害 | 200万円 |
総額 | 400万円 |
(1)健康保険を活用していない場合(自由診療)
損害総額は400万円ですが,過失相殺で,5割減額されますので,加害者に対して損害賠償として請求できる金額は200万円ということになります。しかし,ここで注意しなければならないことは,すでに加害者の任意保険会社から治療費として200万円を支払ってもらっているという事実です。この場合,200万円をすでに加害者側から受け取っている(既払い金)ということと同視できますので,最終的には,200万円(請求金額)-200万円(既払い金)=0円となり,被害者が現実に受けとることができる損害賠償金は0円となってしまいます。
治療費 | 200万円 |
その他損害 | 200万円 |
総額 | 400万円 |
過失相殺 | -200万円 |
過失相殺後の総額 | 200万円 |
既払い金 | -200万円 |
最終的な受領額 | 0万円 |
(2)健康保険を活用した場合(保険診療)
若干ややこしい話になりますが,健康保険を活用した場合,自由診療とは異なり,治療費を病院側が自由に定めることはできません。一定のルール(要するに公定価格表のようなもの)に基づき,治療費を算定することになります。そして,一般的には,同じ治療行為を受けても,自由診療の場合に比べ概ね半分程度の治療費に抑えることができます。つまり,さきほど健康保険を適用しない状態で200万円となっていた治療費を,概ね100万円程度に抑えることができるのです。
さらに100万円程度に抑えることができた100万円のうち,健康保険を利用した場合,自己負担分は3割となりますので,30万円が治療費に関する損害ということになります。これに,その他の損害として200万円を加算すると,結局,損害総額は230万円となります。
損害総額は230万円ですが,過失相殺で,5割減額されますので,加害者に対して損害賠償として請求できる金額は,115万円ということになります。115万円のうち,被害者の自己負担分として治療費30万円を払ったとしても,残額は85万円ということになります。したがって,被害者が現実に受け取ることができる損害賠償金は85万円ということになり,さきほどの健康保険を利用しない場合に比べて85万円もの差が生じることになってしまうのです。
治療費 | 30万円 |
その他損害 | 200万円 |
総額 | 230万円 |
過失相殺 | -115万円 |
過失相殺後の総額 | 115万円 |
既払い金 | -30万円 |
最終的な受領額 | 85万円 |
以上のように,事案によっては,健康保険をうまく活用することで,最終的な自己負担額は低くなります。自由診療で長期間通院し,保険会社と治療費の打ち切りに関してトラブルになり,心理的に病院へ通いにくくなるという悪循環を防止するためにも,健康保険を適切に活用することが重要になります。
このように,健康保険を活用することによるメリットは,特に過失相殺が見込まれる事案においては高いのですが,一方で,特に重症案件の場合には,健康保険の利用について慎重に検討する必要性があるケースも存在しますので,詳しくは弁護士にご相談下さい。
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