自転車で走行中の事故により後遺障害12級の被害者について,逸失利益の算定にあたって自賠責保険よりも高い喪失率が認定された事案
概要
被害者の属性 | 40代 男性 会社員 |
事故の分類 |
自転車と乗用車 |
負傷部位 | 足 |
傷病名 | 大腿骨頚部骨折 |
後遺障害等級 | 12級13号 |
賠償金額 | 1900万(既払金除く) |
依頼のきっかけ
依頼者は,事故から5年以上が経過した段階で,事前認定により後遺障害等級12級13号との判断を受けました。保険会社から示談案が提示されましたが,後遺障害逸失利益の算定や休業損害の算定について納得ができなかったため,また,将来,再手術が必要になった場合の費用について賠償はされるのか,不安に思ったことから,弁護士への依頼を決断されました。
事故場所は下関市から遠方の場所でしたが,今後の打ち合わせのことも考えて地元の弁護士を選ばれたようです。
交渉の経緯
依頼者は,仕事の関係上,乗船をすることがありました。ところが,事故の影響で,思うように歩行することができず,乗船による作業ができなくなったため,会社から乗船の仕事をさせてもらえなくなりました。そのため,乗船をすることで支給されていた乗船手当を受け取ることができなくなりました。給料のうち,乗船手当が占める割合は高く,乗船手当を失ったことにより,約3分の1も減給することになってしまったのです。
さらには,事故前に比べて十分な勤務ができなくなったことから,会社の内規によって,昇進のスピードも落ちてしまい,精神的にも経済的にも著しい損害を負うことになってしまいました。
一般的には,後遺障害等級12級の認定を受けた場合,自賠責保険では労働能力の喪失率は14%とされています。つまり,基本的には,給与の14%が事故により将来受け取ることができなくなった(逸失した)利益と判断されることになります。しかし,依頼者に生じることが予想される損害(逸失した利益)は,明らかに14%を超えるものでした。そのため,14%を超える損害について,重点的に主張・立証をしていくことになりました。
ラグーンでは,まずは勤務先の給与算定や昇進に関する内規を確認し精査しました。そのうえで,内規を相手方の保険会社へ示し,依頼者に発生している不利益,将来発生しうる不利益を詳細に説明し,依頼者には将来自賠責保険の喪失率を超える損害が発生する可能性が極めて高いことを主張しました。
その結果,比較的早期に,当方の主張どおりの損害を認定してもらうことができました。
また依頼者のもう一つの心配事項であった将来の再手術費用についても,示談書の一部に,再手術費用は別途協議するという趣旨の文言を加えることで,解決ができました。
弁護士の目
逸失利益の算定において,労働能力喪失率をどの程度に認定するのかは,実務上,自賠責保険で定められた等級に対応する労働能力喪失率(自賠法施行令別表記載)を参考にします。例えば,14級であれば5%,12級であれば14%,1級であれば100%とされています。
しかし,すべての被害者について自賠責保険の労働能力喪失率を紋切り型に適用させてしまうと,事案によっては明らかに不合理な結論を招いてしまいます。職業,年齢,性別,後遺障害の部位・程度によって,後遺障害が労働能力に与える影響は様々だからです。本件もまさに,自賠責保険の等級に対応する労働能力喪失率を形式的に適用させてしまうと,乗船手当を失ったという被害者の重大な損害が無視されるという不合理な結論を招いてしまう事案でした。
裁判所もこの問題については,形式的に自賠責保険で定められた等級に対応する労働能力喪失率を用いるだけではなく,後遺障害によって被害者が受ける労働・日常生活上の具体的な不利益の内容・程度を審理し,実質面を重視して判断をしています。
裁判外の交渉の段階で実質的な後遺障害逸失利益が算定されるケースは多くありませんが,精緻な主張・立証が奏功した事案でした。
- 保険会社からの過失相殺の主張に対して交渉で無過失の解決ができた事案
- 68歳男性の事故による退職後の休業損害が認められた事案
- 事故後の難聴を伴う耳鳴について12級相当の認定がなされた事案
- 【後遺障害12級13号】後遺障害逸失利益について就労が可能とされる67歳までの22年間の逸失利益を獲得した事例②
- 60代の兼業主婦で賃金センサス女性平均の収入が認定された事案
- 【後遺障害12級】依頼を受けた後,短期間で賠償金を増額させ和解した事例
- 事故直後からのサポートで脛骨骨折後の動揺関節について12級の認定を受けた事案
- 骨盤骨折後の入院付添費,リフォーム工事費が裁判で認定された事案
- 依頼者の意向により傷害に関する示談を先行して行った事例
- 裁判手続により後遺障害14級相当から12級相当へ認定が変更された事例