後遺障害等級併合11級の高齢の被害者について,家事従事者として適切な損害賠償金を取得した事案
概要
被害者の属性 | 80代 女性 主婦 |
事故の分類 | 歩行中に後方から追突 |
負傷部位 | 手 |
傷病名 | 橈骨遠位端骨折,尺骨遠位端骨折 |
後遺障害等級 | 11級(12級6号の併合) |
賠償金額 | 1200万円(既払金含む) |
依頼のきっかけ
事故後,治療中の段階で,ラグーンへ来所されました。
ご相談の内容は,後遺障害診断書の取得を保険会社から依頼されたが,主治医に後遺障害診断書の作成を依頼する際,どのような点に注意すべきか分からないので,適切な認定を受けるためにサポートして欲しいとのことでした。
後遺障害等級認定までのサポート
依頼者の怪我の内容は,橈骨遠位端骨折と尺骨遠位端骨折というものでした。
これらの部位を骨折した場合,手関節の機能障害が生じる可能性があります。事故前に比べて,手の動く範囲(可動範囲)が狭くなったという障害です。
骨折等により機能障害の可能性がある場合,後遺障害診断書を作成してもらううえで重要なことは,機能障害の状況(可動域)を正確に計測してもらうことです。
自賠責の等級認定実務では,関節ごとに正しい計測方法があります。この計測方法にしたがって,正確な可動域を記載してもらいます。よく5度単位や場合によっては10度単位でざっくりとした計測をする先生がいらっしゃいますが,それではいけません。1度単位で正確に計測をしていただく必要があります。
今回のケースでは,可動域の測定を正確に実施していただくために,自賠責の等級認定実務において参考にされている計測方法が記載された書面を主治医に渡し,詳細な後遺障害診断書を作成していただくことができました。
被害者請求の結果,自賠責保険会社から,両手について「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」として,それぞれ12級6号の認定がなされ,両障害を併合して11級との判断がなされました。
交渉の経緯
依頼者は症状固定時,80代半ばの年齢であったため,休業損害と後遺障害逸失利益の2点が争点となりました。
保険会社の主張は,「高齢であったのだから,家事をしていたのか分からないし,仮に家事をしていても若い世代に比べて,相当家事の内容は制限されていたはずである。だから仮に休業損害や後遺障害逸失利益が発生していたとしても通常より減額すべきである」というものでした。
そこで,まずは,依頼者が高齢であるにもかかわらず,家事に従事していたことを示すために打ち合わせを行い,事故前の家事の状況を詳細にヒアリングしました。ヒアリング結果を陳述書としてまとめ,休業損害と後遺障害逸失利益の発生を裏付ける資料の1つとして提出しました。
休業損害と後遺障害逸失利益の発生については,保険会社に認めてもらうことができました。
他方で,問題は休業損害や後遺障害逸失利益の減額の可否とその程度という点でした。つまり,高齢であることを理由に,休業損害や後遺障害逸失利益の算定の基礎となる基礎収入を減額することができるか,できる場合にはどの程度減額されるのかという問題です。
これまでの裁判例等を調査したところ,ある程度の減額は避けられない事案でした。複数の裁判例を参考に交渉を続け,最終的には,裁判をした場合に想定される減額割合とほぼ同程度の割合で和解をすることができました。
弁護士の目
関節の機能障害が生じているケースでは,主治医によって,可動域の計測方法やその正確性に幅があります。事案によっては,計測値が1度違うだけで,賠償金額に数百万円の差が生じるケースも存在します。関節の可動域がどの程度で制限されているのか,裁判でも争点になることは多くあります。そのため,後遺障害等級認定を受ける前の後遺障害診断を作成していただく段階で,いかに正確な計測をしてもらうかが極めて重要なポイントになります。
また今回のケースのように,高齢者が事故の被害に遭われ,後遺障害が生じた場合,通常とは異なる検討が必要になります。減額の可能性があることを十分に理解しないまま訴訟提起をしてみたら,判決で大幅に減額されたということでは専門家として許されません。
訴訟提起をすべきか否か,どの程度で和解すべきかという点については,それまでの経験と類似の裁判例を複数調査することが必要不可欠です。慎重に文献を調査し,想定される結果を見極めることが被害者救済にとって重要であることは言うまでもありません。
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